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ごろごろ にゃーん

ごろごろにゃーん
ごろごろにゃーん
長新太/作  福音館書店   

 ごろごろいう飛行機に、にゃーんにゃーん鳴くねこがたくさん乗り込んで飛び立ちます。

 ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、 ひこうきは とんでいきます。

 魚を釣ったり、クジラやUFOに出会ったり、大蛇を飛び越え、ビルや森の上を飛び、鉄橋をくぐり、飛行機とねこたちは飛んでいきます。

 この絵本は「こどものとも」の一九七六年一月号として発表され、現在は「こどものとも傑作集」の一冊として発売されています。数ある長新太さんの絵本の中で、ぼくの一番のお気に入りです。

 長新太さんの絵本を見ていつも思うのは、絵の力です。見ているだけで勇気をもらったり、力が湧いてきたり、なんだか楽しくなってきたり、そんな力が長さんの絵にはあります。
 もう半世紀近くも昔に幼児期を通過してしまったぼくには推測するしかないのですが、まだ言葉の理解が発達途上の幼い子どもにとって、そんな絵の力はきっとぼくらおとな以上に大きな影響力があるに違いありません。
 ねこが飛行機に乗っていろいろなところをただ飛んでいくというこの絵本を読んで、子どもたちは何を思うのでしょうか。「おもしろいなあ」とか「たのしいなあ」とかいうことだけでなく、子どもたちの心に言葉では表現できないふわふわと広がるような不思議な気持ちが湧いているようにも思います。
 こんな絵本に幼くして出会った子どもたちは、たとえこの絵本のことを忘れてしまってもどこかにその影響が残るかもしれませんね。
 自分の幼児期に長新太さんの絵本がまだこの世に存在しなかったぼくは、いまの子どもたちに、そしてこれから生まれてくる子どもたちににちょっぴり嫉妬します。

※文中の太字部分は「ごろごろ にゃーん」より引用
海 五郎 * 日本の絵本 * 02:54 * comments(4) * trackbacks(0)

よるのびょういん

よるのびょういん
よるのびょういん
谷川俊太郎/作 長野重一/写真  福音館書店  

 きょうは「こどものともセレクション」から、「よるのびょういん」を紹介します。
 この絵本は、夜中にお腹が痛くなって高熱の出たゆたかが救急車で病院に運ばれ、手術を受ける様子を追った写真絵本です。写真は長野重一さん。白黒写真が救急車や病院の様子をドキュメンタリータッチに描いています。
 そして、テキストが谷川俊太郎さん。救急隊員、夜の病院で働く人々、家族の姿を淡々とした文章で語っています。

 えっくすせんと けつえきけんさの ぎしが でんわで よびだされる。
 せんせいは てれびで ゆたかの からだのなかを しらべる。
 ちのなかの はっけっきゅうの かずも けんびきょうで かぞえる。


 谷川さんの創作絵本には、どれも起伏に富んだストーリーというものがありません。ものごとをいろいろな側面から眺めて考え方の基本を示してくれたり、この絵本のように社会の中の人や仕組みの存在、関係性を示してくれる「認識絵本」です。
 「認識絵本」とは、いわば子どもたちがまわり世界をのぞき見る小窓のようなものではないでしょうか。そんな「認識絵本」が、現代日本を代表する詩人であり、美しい日本語テキストの紬手である谷川俊太郎さんの手によって数多くこの世に送り出されていることは、いまの子どもたちにとってとても幸せなことだと思います。
 谷川さんのテキストを媒介にして、たくさんの子どもたちが世界の美しさや不思議さに気づいていくことでしょう。
 そして、この「よるのびょういん」もそうなのですが、谷川さんの絵本には押しつけがましさがありません。絵本に出会った子どもたちが、世界がよく見えるようにさりげなく窓を開いてくれているだけなのです。
 だから、この絵本を読んだらこれとこれだけは読み取らなければならない、といったものはないように思います。その子の成長や個性に合わせて、何かに気づいたり、気づかなかったり、そんな絵本なのです。
 大切なのは自分で気づくということであって、谷川さんはいつもそっとそのヒントをテキストにしています。

※文中の太字部分は「よるのびょういん」より引用
海 五郎 * 日本の絵本 * 23:09 * comments(4) * trackbacks(0)

どろにんげん

どろにんげん
どろにんげん
長新太/作  福音館書店  

 きょうは、「こどものとも」五十周年を記念して発売になった「こどものともセレクション」の一冊、長新太さんの「どろにんげん」を紹介します。

 いいなあ、おいしそうだなあ、この絵本。この桃色の空なんて、長さんしか描けないだろうなあ。裏表紙のおいもの絵もすごいなあ。
 やっと「こどものともセレクション」として刊行され、初めてこの絵本を手にしたぼくは開く前からどぎどきです。

 あるひ へんてこなものが にゅーっと でてきました。
 これは どろにんげんという おばけです。

 うみのほうは たこです。


 へんてこで、どろどろとしていて、おどろおどろしいはずの「どろにんげん」を登場させておきながら、さらっと「たこ」を相方に持ってきて、ストンと読者を無意味な世界に引きずり込みます。
 最初のページで参りました。ぼくはボクシングでいうなら1ラウンド開始早々ダウンです。だから、ここから先のことを書くのはやめにしておきます。みなさんもぜひ実際にこの絵本を手に取ってお確かめください。

 それにしても、長さんのスケールの大きさ、温かい作風、無意味なことの意味(?)。それらが日本の絵本に果たした役割はとても大きいですね。もしも長さんの登場がなかったら、この世がいまとは少し違った世界になっていたような気さえします。
 その長さんの遺作、最後の絵本が刊行されるのも、もうすぐです。

※文中の太字部分は「どろにんげん」より引用
海 五郎 * 日本の絵本 * 00:59 * comments(6) * trackbacks(1)

あな

あな
あな
谷川俊太郎/作 和田誠/画  福音館書店  

 創刊五十周年の「こどものとも」の話題が続きましたが、ついでにこの「わくわく本」でも小特集を組んでみようと思います。
 とはいっても六百冊になった「こどものとも」すべてをではなく、谷川俊太郎さんと長新太さんという二人の作家にスポットライトをあてての紹介です(もうすでに今月になって一冊ずつ紹介しましたので、それもあわせての特集と思ってください)。
 ぼくは谷川さんと長さんの仕事がなければ、いまの日本の絵本はもっとずっと幅の狭いものになっていたと思っています。どういった内容のものを絵本の題材にするかということにおいて、いまでは当然のように思われていることを、二人はとても斬新なアイデアで切り開かれてきました。また、その発表の場として「こどものとも」が果たした役割もとても大きかったように思います。

 きょう紹介するのは谷川俊太郎さんの「あな」で、「こどものとも」の一九七六年一一月号として発行されました(現在は「こどものとも傑作集」として刊行中)。

 にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた。

 両親や妹、友だちにいろいろと穴のことを尋ねられても、「さあね」とか「まあね」とかつれない返事をするだけで、ひろしは穴を掘り続けます。手の豆が痛くても、汗が耳の後ろを流れ落ちても...。
 やがて、穴はひろしがすっぽり隠れるぐらいの深さになり、イモムシが穴の底からはい出してきました。それを見てひろしはふっと肩の力が抜け、掘るのをやめて座り込みました。

 ひろしは あなのかべの しゃべるのあとに さわってみた。
 「これは ぼくの あなだ」 ひろしは おもった。


 穴の中から宝が発見されるわけでも、ひろしがそれからその穴で暮らすようになるわけでもありません。ひろしはのぞきに来た人たちにまたつれない返事をしながら穴の底にしばらく座り続け、やがて外に出て穴を埋めてしまいます。
 この絵本は、そんな内容です。深読みするのも自由、穴が何を暗喩しているか考えるのも自由、でもそんなややこしいこと考えずに穴はひんやりして気持ちいいだろうとかだけ思って読んでもいいはずです。だって、そこには穴があるだけですからね。

 ただそれだけのことを題材にした絵本。縦開きという斬新さ、最初から最後まで一定の穴の断面図という絵の構図。これが絵本になったということそのものがすばらしい絵本なのですが、おまけに読んでいておもしろいのです。この絵本を「おとな向き」と評されているのをよく見かけますが、おとなが読んでおもしろいから子どもには不向きだという考え、ぼくは間違っていると思います。

※文中の太字部分は「あな」より引用
海 五郎 * 日本の絵本 * 00:35 * comments(12) * trackbacks(3)

こんにちはおてがみです

こんにちは おてがみです
こんにちは おてがみです
にしむらあつこ、中川李枝子・山脇百合子、筒井頼子・林明子、加古里子、富安陽子・降矢なな、さとうわきこ、こいでやすこ、佐々木マキ、村山桂子・堀内誠一、スズキコージ、カズコ・G・ストーン ほか  福音館書店  

 「こどものとも」創刊五十周年の話題をもうひとつ紹介します。
 福音館書店から記念出版として「こんにちはおてがみです」が刊行されました。

 この本を開くと最初に登場するのはホネホネさん。

 ギコギコキーッ ゆうびんでーす!!

 本のページには十枚の封筒が貼り付けられていて、その中にはちゃんと手紙が入っています。
 差出人はぐりとぐら、だるまちゃん、ばばばあちゃん、「やっぱり おおかみ」のおおかみ、やなぎむらのむしたちなど、どれも手書きのすてきなお手紙です。

 ぼくらのなまえは ぐりとぐら
 このよで とてもすきなのは
 おてがみ かくこと もらうこと


 封筒の表には「ちきゅうこく えほんけん こどものともむら    さま」と宛名が書かれています。お子さんにこの本をプレゼントされる方は、ぜひそこに子どもの名前を書き入れましょう。

 おなじみの絵本の主人公たちからの手紙ですから、とても楽しく読めました。絵が描かれていたり、絵文字になっていたり、つぎの手紙を封筒から取り出すのにわくわくします。きっと絵本好きの子どもたちには、またとないすてきなプレゼントになることでしょう。
 ぼくの一番のお気に入りは「やっぱり おおかみ」のおおかみからの手紙。手紙を開いて、思わずにんまりです。

 そして、この本の最後には特大のおまけがついています。「こどものともひろば」というその折り込みには、なんと現在発売されている「こどものとも」の百冊と十のシリーズから、登場人物やら動物やらのりものが大集合しているのです。
 あなたはいくつわかりますか?

※文中の太字部分は「こどものともひろば」より引用
海 五郎 * 日本の絵本 * 01:38 * comments(20) * trackbacks(5)

いろいきてる!

いろ いきてる!
いろ いきてる!
谷川俊太郎/文 元永定正/絵  福音館書店(月刊「こどものとも」2006年3月号) 

 月刊絵本「こどものとも」の創刊五十周年、その記念すべき六百号として、この「いろ いきている!」が刊行されました。作者は、あの名作「もこ もこもこ」(文研出版)を生んだ谷川俊太郎さんと元永定正さんのコンビ。二人の年齢を合わせれば百五十歳を越えるおじいちゃんたちから、いまの子どもたちへのすてきなプレゼントです。

 あ、 いろ、 いきてる!

 横長の見開きいっぱいに、たくさんの水で溶いた絵の具が流れています。そして別の色の絵の具がその上に...。
 「流れることは引力と時間などが関係しているわけだけれど乾いてしまってもそのまま流れた形が残って流れた時間を感じさせる」(「作者のことば」元永定正)とのことば通り、絵はまるで生きているようです。まさしく、生命は万物に宿るといったところでしょうか。

 生きている絵に、さらに生命力を吹き込んでいるのが谷川さんのテキストです。リズミカルなことばを得て「いろ」たちは動き出します。
 「いやあ、今回は苦労しました。試行錯誤の連続でテキストを何度書き直したかもう覚えていないほど」(「作者のことば」谷川俊太郎)というのは、きっと絵が生きていて、瞬間、次の瞬間と、次々に谷川さんの頭の中からことばを呼び起こしたからでしょう。

 そこに絵があって、テキストがあって、絵本が生まれる。二つの優れた個性がぶつかりあって、新しい生命が、新しい価値が産み落とされる。いま、この真新しい絵本を前にして、その現場に居合わせたかのような喜びを感じます。
 絵本には、すでに名作と呼ばれるすてきな絵本がたくさんありますが、こうやって新しいすてきな作品に出会えた喜びはまた格別ですね。

 以前、子どもたちと「いろいろ あれこれ」というワークショップをやったことがあります。そのときは、部屋の壁、床、すべてに紙を貼って、そこに絵の具や色インクを飛ばして、みんなで大騒ぎをしました。抽象画の世界って難しいもののように思いがちですが、意外と子どもたちは好きなのです。あのときの子どもたちの生き生きとした笑顔を、この絵本を開いて思い出しました。
 ぜひ、あなたもこの絵本を開いて、その笑顔の仲間入りをしてください(月刊誌ですので、興味のある方はお早めに)。

※文中の太字部分は「いろ いきてる!」より引用
海 五郎 * 日本の絵本 * 02:09 * comments(6) * trackbacks(2)

がんばれさるのさらんくん

がんばれさるのさらんくん
がんばれさるのさらんくん
中川正文/作 長新太/画  福音館書店  

 ぼくがこのブログを始めたのが昨年の六月で、その月のうちに長新太さんの訃報が届きました。長新太さんは、絵本といえばまず最初に思い浮かべるぐらいに大きな存在でしたから、ぽっかりと大きな穴ができてしまったような喪失感を抱いたことを思い出します。
 でも、今でも本屋さんや図書館の絵本棚には以前と変わらず長新太さんの作品がたくさん並んでいて、きっとこれからも長新太さんは絵本の棚から元気な笑顔をふりまいてくれることでしょう。
 それに、「絵本おじさんの東京絵本化計画」の呼びかけもあって、絵本ブログのみなさんと貴重な出会いがあったのも長新太さんのおかげでした。
 いまあらためて、長新太さんの残してくれものに感謝です。

 長新太さん、四十八年前の絵本第一作「がんばれさるのさらんくん」が、この度めでたく復刊されました。以前は「こどものとも傑作集」として刊行されていたものの長らく絶版。その後は「復刻版Aセット」に収められただけでした(「分売はいたしません」の文字がうらめしかった)。
 それが、「限定出版」の帯を付けて刊行されたのですから、長新太さんのファンはこの絵本に出てくるまちの人のように、「おくれては たいへん」、「さあ、はやく はやく」と書店に急ぎましょう。

 ぼくは、この絵本に出てくる、夜の動物園の場面がとても好きです。最初の絵本の仕事なのに、誰も考えつかないような絵本を描いてしまった長新太さん。やっぱり、この人はすごい人だな。
 絵本棚の長さん、いつまでもお元気で。

海 五郎 * 日本の絵本 * 00:35 * comments(2) * trackbacks(0)

こねこ

こねこ
こねこ
イワン・ポポフ/監督 アンドレイ・クズネツォフ・他/出演  ロシア  

 いつもユニークな絵本紹介を楽しみにしている「いつも絵本といっしょ」にこの「こねこ」というDVDが紹介されているのを見て、その場で衝動買いに走ったりせず、冷静に一週間悩んだあげく、やはり買ってしまいました(笑)。

 でもこの映画、いいですよ。ぼくがねこ好きだということを割り引いても十二分に楽しめる映画でした。ねこへのということではなく、愛情にあふれているんです。以前紹介したパペット・アニメ「ミトン」もそうですが、ロシアの作品、恐るべしですね。

 女の子がおばあちゃんに買ってもらった仔猫が、ある日窓からトラックの屋根に落ちて都会へ迷い込むお話です。仔猫の名前はチグラーシャ、ロシア語で「トラ」のことだそうです。
 トラックで家から遠くに運ばれてしまったチグラーシャには大冒険が待っています。危ないところを勇敢なワーシャという名前のねこ助けられ、チグラーシャはワーシャの暮らしている家の居候になります。
 ワーシャの主人フェージャは大のねこ好きで、そこにはたくさんのねこが暮らしていました。このフェージャを演じているアンドレイ・クズネツォフという人は有名なサーカスの猫使いらしいのですが、表情や仕草にねこへの優しさがあふれていて、それがこの映画をとても引き立てています。
 また、チグラーシャを探す家族の様子、父親が所属するオーケストラの団員まで協力するところなど、ロシアの都会で暮らす人たちの優しい側面が描かれていて好感が持てました。
 そして、フェージャが地上げ屋に追い立てられたり、ねこたちのハラハラドキドキの冒険劇が繰り広げられます。ねこと暮らしている人間にはもうたまりません。

 この映画、外国映画としてはあまり例のない「文部省選定映画」だそうですが、文科省も捨てたものではないですね。ロシアは日本にとって近くて遠い国ですが、この作品や「ミトン」を見ると、ぐっとロシアに親近感がわいてくることでしょう。日本の子どもたちにも、ぜひ見てもらいたい作品です。

 ところで、先日訪れた沖縄でもたくさんのねこたちに出会いました。沖縄には、ねこを大切にしている人が多いようです。ねこたちがどの程度人間を警戒しているかで、そのことはわかりますね。ねこにとって暮らしやすいところは、人間にとっても暮らしやすいところだと思います。


沖縄・奥武島のねこ
沖縄・奥武島のねこ
海 五郎 * 映像 * 03:48 * comments(7) * trackbacks(1)
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